The Velvet Teen/一瞬の引力
風邪を引いて三週間近く経つ。
一旦持ち直してからまた同じ症状に陥って、しばらく休んでいた。
久々の連休なのにろくに遊べないので退屈だ。部屋の掃除もしたし、映画も見たし、時々空気も入れ替えたけれど、咳が酷くて人としゃべれないし、なんにももうやることがない。
これって日記を書くのに最適だ、と思った。きっと兼好法師だってこんな気分だったに違いない。
外は嵐。
この季節になると思い出すのは、The Velvet Teenの音楽だ。
大学時代最後の冬、吉祥寺駅にあったCDショップで偶然試聴した音楽に、私は心を奪われた。
目の前のもの全てを包んで流れていくようなストリングス、歪んだ電子音。耳慣れたギターは聞こえてこず、代わりに鍵盤がメロディーを刻む。うねるようなかすれた声は確かに美しいが、どこか念仏のようにも聞こえなくもない。
このThe Velvet Teenというバンドの2nd Album"Elysium"を初めて聴いた時、私はしばらくヘッドフォンを外せなかった。すぐにライブ予定を調べて愕然とした。前の年の冬にすでに彼らは来日し終えた後だったのだ。泣く泣くアルバムを買い、しばらく集めたアルバムだけを聴いて過ごした。
地元に戻った後で、私はようやく彼らを生で見ることになる。
Penicillin(It doesn't mean much)
The Velvet Teenは、もともと別々のバンドで活動していたヴォーカルのジュダ、ベースのジョシュ、ドラムのローガンの3人組からなるバンドだった。2000年に先にジュダとローガンが一緒にこのバンド名で活動を始め、後にジョシュが加入する。
(ちなみに彼らの出身地はカリフォルニアのソノマ郡。ワイン栽培で知られている)
2002年に1st Album"Out of the Fierce Parade"を制作。共同プロデュースには、Death Cab for Cutieのクリス・ウォラが当たった。2ndとは全く異なる、ギターを中心にした作品で、みずみずしい衝動と同時に、新人バンドにしては不相応なくらいの静けさに満ちたアルバムでもある。
ジュダはこのアルバムを「生と死」と表現した。ジャケットはローガンが手掛けた。モノクロのエッチングで、生き物とも植物とも見分けのつかないものが廃墟の街を埋め尽くし、空には黒い鳥の群れが飛ぶ様が描かれており、どこか空虚さを漂わせている。
Radiapathy
Blurry eyed and waiting for the alarm to sing
Sing me into fm radiapathy
Numb and tired and perfect for the working day
I get home and turn the cable strobe light on
To tell me who I'm not and what my life still lacks
Yeah, if I could make a copy of myself, I might
So I could have twice as much of everything
Come, it's time to wake up
Know the way, you know the way
So I tell the world that it can kill it's own
Blow itself to smithereens for all I care
I will ride the wave into it's smoking hole
I will be the vulture to it's carrion
Naked Girl
この前、ウォークマンをランダムで流していたら、突然Naked Girlが流れ出して思わず立ち止まってしまった。初々しい感じがして、とても好きだ。
1st発表後、MEWのオープニングアクトとして初来日も果たした。メジャー・レーベルからの声も掛ったが、いまはなきインディーレーベルのSlow Danceに戻り、ツアーを精力的にこなして初のフルセルフプロデュースとなる2nd Album制作に取り掛かる。
しかし、ドラムのローガンが癌の治療でバンドを離脱。2006年12月に急逝し、結果的に遺作となってしまった。
3rd Album"Cum Laude"を引っ提げての06年秋の来日は、渋谷クラブクアトロだった。
確かローガンのことを心配したファンが、鶴を折ろうと呼びかけていた。
久々の東京でのライブで、私は少し緊張していたかもしれない。バンドを一緒に立ち上げたローガンのことを、ジュダはどんな風に今思っているんだろうと、ラップトップに向かう彼を見ながら気になった。
ライブ後、出待ちをしていた子と一緒に話して、ジュダが出てきたときは慌てて追いかけながら何とか「I love your music」と言い、Tシャツにサインをもらった。ジュダはどこにでもいそうな、ちょっとシャイな感じの男の子だった。
Cum Laudeはそれまでのアルバムとはまた異なり、電子音と生のドラムをフルに使った作品だった。ローガンの後任となったドラムのケイシーを見て、「鬼(のように疲れそうな)ドラム」と思ったのは、恐らく私だけではないはずだ。
その後しばらくバンドは姿を潜める。同じ秋にジョシュが一旦脱退し、ローガンの逝去もあって、ジュダは一人になった。少し経ってから、ギタリストを迎えてバンドとしての活動を再開し、09年にはジョシュが再び加入。後にギタリストがまた脱退し、結局Cum Laude時代の編成に戻った。
2014年、休眠状態だったTwitterのアカウントで、突然The Velvet Teenは「戻ってきたよ!」と声を上げて私を驚かせた。何とフルアルバムの制作にも取り掛かっているらしい。実に8年ぶり。「待ってた!!!」とスマホにしがみつきたくなった。同じようなお待たせバンドを他にも好きになってしまっているので、待つのには慣れているけれど、やっぱり復活は嬉しい。アメリカでは積極的にライブも行っているようだし、また来日しないかなとうずうずする。
どんなに待ったとしても、彼らが生きて、音楽を続けていってくれることが本当に嬉しい。
皆少しずつ年をとって、あの頃みたいな奔放さや自由を忘れかけたとしても、音楽がまた振り向かせてくれるんじゃないかなと思う。
それが永遠に続くものでなくてもいい。一瞬の引力で、私をそこに突き落としてほしい。
私はいつだって、次の音楽を待っている。
No Star
参考元:A SPECIAL GIFT FOR YOU(The Velvet Teen Japanese Fun Site)