渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

Daughter/孤独という音楽

確か数年前の初夏、イングランドのライに行った時だった。
雑貨店に入ってギフトカードを冷やかしていた時に、そのBGMが突然耳に飛び込んできた。何となく気になって、鼻のあたりにピアスのあった店員の女の子に「これは何ていう曲?」と尋ねた。
「Youth」
そう彼女は言ったけれど、上手く聴きとれていなさそうな顔をしていた私に、彼女はもう一度メモにぐりぐりとペンで「Youth」と書いてよこした。

受け取った私は、帰国してからメモを手掛かりにネットで音楽を調べた。てっきりバンド名だと思い込んでいた名前は、実は曲のタイトルだった。

きっとBGMは、あの店員が自前で持ってきていたものに違いない。そうでなければ、タイトルを即座に答えるなんて難しいはずだもの。
最近読んでいたグレアム・グリーン『情事の終り』によく似合って、思わずぐっときてしまった。

Daughter/Youth



  
曲の名前はYouth。バンド名はDaughter。
2010年にイギリスの4ADというインディーズレーベルからデビューした3人組のバンドだ。ボーカルはロンドン北部出身のエレナ、ギターはスイス生まれのイゴール、ドラムはフランス出身のレミ。ちなみに4ADは1979年に誕生した伝統あるレーベルで、これまでにコクトー・ツインズDead Can Dance、Deerhunter、近年ではBon Iverなどを輩出している。
wikiによると、エレナは幼いころから、ダブリン生まれの祖父を通じて伝統音楽の素養を身に付けた。最初にロックらしい音楽に触れたのはジェフ・バックリィのGrace。やがてエレナはロンドンでイゴールと出会い、一緒にバンドを始める。
デモを経て、デビューEPとなるHis Young Heartを発表したのは11年、同年秋にもう一つのEPであるThe Wild Youthを送り出し、徐々に評価が高まった。

2013年、デビューアルバムのIf You Leaveを発表。
ピュアで儚げなエレナの声と冷えた温度のギター、フォークからポストロック…というかエクスペリメンタルの要素を感じる音。曲調は一貫して内省的な雰囲気だ。
店先で初めて聴いた時、素直に「きれいだ」と思った。
アルバムの収録曲であるYouthは、ドラマの『グレイズ・アナトミー』や『アロー』などさまざまな番組で使用され、彼らの名前は一躍知られるようになったようだ。Medicineは『パーソン・オブ・インタレスト』でも使われたのかな?

Daughter/Medicine


来年早々にセカンドアルバムが予定されているが、作品がまだ1枚しか出ていない割りには注目度が高い気がする。エクスペリメンタルでありつつ、耳に残りやすいキャッチーな要素もあるのが魅力なのかもしれない。
最近では11月のイベントに合わせて初来日も果たした。今度はぜひ単独でも来てもらいたいな、と思う。冬時期に似あうし、今一番肌感覚に合うバンドだ。
■The Guardianのレビュー

ちなみに『情事の終り』はコリン・ファース朗読のオーディオブックを買った故に読んでいたのでした。ミステリーみたいで後半になるほど一寸先の展開が読めず、とても面白かった。
一方オーディオブックですが、コリンに「これは憎しみの記録である」と言われた日には…!!察していただきたい。

やっぱり一番好きなYouthの歌詞を置いておく(完全意訳なので間違っていたらすみません…)。

Youth

Shadows settle on the place that you left
Our minds are troubled by the emptiness
Destroy the middle it's a waste of time
From the perfect start to the finish line

あなたが去った場所に影が落ちる
私たちの心は空虚に戸惑うばかり
中間地点なんて壊して 時間の無駄だから
最終地点へ向かう 完璧なスタートには

And if you're still breathing, you're the lucky ones
'Cause most of us are heaving through corrupted lungs
Setting fire to our insides for fun
Collecting names of the lovers that went wrong
The lovers that went wrong

もしもあなたが息をしているなら、ラッキーだね
だってほとんどの人は肺を病んで 唸っているんだもの
戯れに火遊びを楽しんでみる
上手くいかなかった恋人たちの名前を集めて
上手くいかなかった 恋人たちの

We are the reckless
We are the wild youth
Chasing visions of our futures
One day we'll reveal the truth
That one will die before he gets there

私たちは向こう見ずで
手に負えない若者
未来という幻想を追っては
いつか 真実を白日の元に晒す
そこにたどり着くまでに 誰かは息絶えるという真実を

And if you're still bleeding, you're the lucky ones
'Cause most of our feelings, they are dead and they are gone
We're setting fire to our insides for fun
Collecting pictures from the flood that wrecked our home
It was a flood that wrecked this

もしもあなたが血を流しているのなら、ラッキーだね
だって感情の大半は 息絶え失われるものだから
戯れに火遊びもしてる
私たちの帰る場所を壊した この奔流の中で 写真を集めよう
そう ここを壊したのは 奔流

And you caused it
And you caused it
And you caused it

あなたのせいだよ
あなたのせい
あなたのせいだよ

Well, I've lost it all, I'm just a silhouette
A lifeless face that you'll soon forget
My eyes are damp from the words you left
Ringing in my head, when you broke my chest
Ringing in my head, when you broke my chest

何もかも失って、私はもうただの影になる
すぐに忘れ去られる 抜け殻みたいな顔に 
あなたの言葉で 私の目は滲む
あなたが私を傷つけると 頭が割れそうに痛い
あなたが私を傷つけると 頭が割れそうに痛い

And if you're in love, then you are the lucky one
'Cause most of us are bitter over someone
Setting fire to our insides for fun
To distract our hearts from ever missing them
But I'm forever missing him

もしもあなたが恋をしているなら、ラッキーだね
だって皆 人には冷たいものだから
戯れに火遊びに手を染める
失った誰かたちから気をそらすために
でも私は 彼を 永遠に見失ってしまった

And you caused it
And you caused it
And you caused it

 

あなたのせいだよ
あなたのせい
あなたのせいだよ