渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

Once Around the Block/この温かくてへんな生き物は

気持ちよく裏切られるというのはこういうことだろう。

中古でBadly Drawn Boyのデビュー作、The Hour of Bewilderbeastを買って、いつだったか忘れたころにプレイヤーに掛けたことがあった。放置していたくせに、まるで昔からよく聞いていたアルバムのようだった。
もちろんタイトルに上げたOnce Around the Blockは彼の名曲で、どこかで聴いたその歌だけは知っていたし、2006年のBorn in the U.K.は持っている。
でも改めてこのデビュー作を通して聴いてみると、静かなフォークからインスト、ファンクめいた曲も飛び出す後半まで、豊かな変化に満ちているのが分かる。彼はアコギ一本の弾き語りだけでは終わらない、複雑でユニークで愛すべきアーティストだ。



なぜ今このアルバムを取り上げたかといいえば、一昨日BBC Radio2の番組に、発売から15周年を記念してBadly-のデーモンが出演していたからだ。
記念LPの発売やツアーも発表され、彼の周辺は賑やかになってきている。

話が前後するが、Badly Drawn Boyは英・ベッドフォードシャー出身のデーモン・ゴフのソロプロジェクト。独学で音楽を作り始め、マンチェスターへと出てきた97年に初めてのEPを発売した。それにしても、2000年のデビューアルバムに至るまでには、ずいぶんと時間がかかっている。
だってあのマンチェだ。


ストーン・ローゼスのオアシスの、「俺たち」感満載のあのマンチェで、誰とも分かち合う気のないミニマルな世界を旅するふらふらの酔いどれ詩人だ。一体どんな不思議な存在だったのかと思う。
ライナーノーツを見ると、デーモン自身もペイヴメントフレイミング・リップスといったバンドが好きだったみたいで、なるほどと何となく納得した。
タイトルのThe Hour of Bewilderbeastとは、「脅えた獣の時間」。
こつこつと積み上げたレンガの家みたいに、彼は音楽を積み重ねる。
一見孤独に見える始まりから、「君」への距離をぐっと縮める中盤、気持ちの移ろいに揺らめく後半と、まるで彼の書いた物語を読んでいるかのようだ。

Stone on the Water

Cause a Rockslide



USのSSW、エリオット・スミスを感じさせる部分もあるが、デーモンの場合はもう少し温かくくつろいだ雰囲気がある。
このデビュー作でデーモンは00年の英マーキュリー賞(英・アイルランド国内で年間のすぐれた作品に与えられる)を受賞した。
彼の名が世界でもよく知られるようになったきっかけは、02年にニック・ホーンビイの小説をもとにした映画『アバウト・ア・ボーイ』のサウンドトラックを手掛けたことだろう。

ヒュー・グラントと当時はまだ子役だったニコラス・ホルト…小さい!!


とりあえずまた戻って、何度聞いても好きな曲Once Around the Blockの歌詞を置いておこう。相変わらずの意訳だから間違っていたらご指摘ください。BBCのラジオではもちろんこの曲も歌ってくれて、深夜まで起きていたかいがあったと喜んだ。
ちょっとひねくれた、素直じゃない感じが好き。

Once Around The Block

You quiver like a candle on fire
I'm putting you out
Maybe tonight we could be the last shout
But I'm fascinated by your style
Your beauty will last for a while

ろうそくの炎みたいに震える君
僕はそんな君を吹き消そうとしている
今夜が最後の叫びになるはず
でも僕は君のスタイルに夢中だ
君の美しさはしばらく焼きついたままだろう

You're feeling instead of being
The more that I live on the inside
There's nothing to give
I'm infatuated by your moves
I'm got to search out for your clues

君は存在する代わりに感じている
僕がその内面で生きようとするほど
与えられるものは何もない
君の一挙一動にのぼせては
僕は君の手掛かりを追い求める

I want to repair your desire
And call it a gift that I stole from
just wanting to live
Now I see the vision through your eyes
Your innocence no longer fuels surprise

君の欲望を取り戻したい
そしてただ僕が生きたいがために
盗んできた贈り物だよ、と言ってのけたい
君の目を通して 幻影が見える
その純粋さは もう驚きを焚きつけはしない

Trying to outrun your fear
Your running to lose, heart on your sleeve
And your soul in your shoes
Take a left, a sharp left
And another left, meet me on the corner
And we'll start again

恐れを振り払おうとして
君は負けに向かって走ってゆく、心をさらけ出しながら
靴には魂が入ってる
左に曲がって、鋭角にね
もう一度左へ、その角で僕は待ってる
僕らはそこでまた始めよう


Kings of Convinienceのカバーもあるよ



最近、The Hour-1曲目のThe Shining1が映画『WISH I WAS HERE 僕らのいる場所』で使用されたもよう。