渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

いまを生きる/Dead Poets Society



■いまを生きる(米・1989)
1959年、新学期を迎えたばかりのアメリカ・バーモントの全寮制名門校ウェルトン・アカデミーに、イギリスから新任の英語教師キーティングがやってくる。
いきなり型破りな授業を始める彼に、規則でがんじがらめにされた生徒たちを戸惑うばかり。
詩の教科書のページを破らせ、「自分で考えろ」と訴えるキーティングに、生徒たちは少しずつ刺激を受けていく。
生徒の一人ニールは、母校のOBだったキーティングが、かつて仲間たちと作った詩のクラブ「Dead Poet Society(死せる詩人の会)」を密かに復活させることを提案。
ニールは仲間たちとともに学校を抜けだし、林の中の洞窟で思い思いに詩を詠みあげる。彼らは詩を通して、本当に自分たちがやりたいことに気付いていく。


   
季節は秋だ。
茶色の葉が木々を彩っている。
学校は町はずれにあるのか、近くには森や池しか見えない。
美しいが堅牢な古びた校舎の中で、生徒たちはお互いと一緒にいるほかは退屈な日々を過ごしている。
 
映画の冒頭、まだ幼い兄弟が、そろいの制服に身を包んで写真の中に収まっている。
ともされたろうそくの火が白く輝いたと同時に、映画のタイトル「Dead Poets Society」が現われる。
写真に切り取られるのは過去で、ろうそくの火はいつか消えてしまうものだ。
彼らは皆、永遠に生きることはなく、毎日等しく死へと進んでいく。だから、キーティングは教え子たちにこう囁くのだ。
「いまを生きろ」と。
 

 
個人的な話だが、私はロビン・ウィリアムズが苦手だった。
トム・ハンクスにも同じことが言える。恐らく子供のころから見慣れた顔だったせいもあるかもしれない。
ミセス・ダウト』や『ジュマンジ』、『グッド・ウィル・ハンティング』…あまりにも彼を見慣れてしまい、「彼はきっとこういう役なんだろう」とステレオタイプの見方をしてしまう。
それくらい、昔からたくさんの作品に出てきた俳優だった。
8月にロビン・ウィリアムズが亡くなったとき、まさしく世界に衝撃が走った。何カ国かのニュースで取り上げられ、Twitterにはさまざまな俳優たち、一般人からの追悼の言葉がびっしりと並んだ。
皮肉なことに、彼の死がこの作品を手に取らせたといってもいい。
(きっとお涙ちょうだいなんだろう)とタイトルだけで判断していたことを悔やんだ。
ある場面で、素直に泣いた。斜に構え過ぎていた自分に恥ずかしくなって、彼らが読む詩の一篇一篇をもう一度聞きたいなと思った。
昔、テニスンの詩が好きだったことを思い出した。
テニスンが亡くなった友人に寄せた、身を引き裂くような哀しい詩"In Memoriam"を読んだ時のことや、詩の一部をあの頃の日記に書き写したことも。
テニスンも泣いたんだろうか。
 
詩人たちは死んだが、彼らの生きた証は詩に残された。
生徒たちは作品を読み、自分の気持ちと詩人の気持ちを重ねる。あるいは、自らの気持ちに気づく。
 
キーティングは生徒たちにこう言った。
"Carpe. Carpe Diem. Seize the day boys, make your lives extraordinary"
彼らはその言葉を胸に刻みつける。
生徒たちはキーティングに親しみをこめて呼びかける。
"O Captain!My Captain!"
キーティングの好きなホイットマンの詩の一節だ。
だが、ホイットマンが敬愛したリンカーン大統領の死を悼む作品でもある。
彼はどんな心情でこの詩を愛したのだろうか?彼の心は見た目よりもずっと複雑なように思える。
生徒たちに優しげに微笑むキーティングだが、自分のことはあまり多くは語らない。
彼の感情を読みとれるのは、視線だけだ。
ロビン・ウィリアムズもそんな人だったのかもしれないと、今になって思う。


O Captain! My Captain!- Walt Whitman

O Captain! My Captain! our fearful trip is done;
The ship has weather'd every rack, the prize we sought is won;
The port is near, the bells I hear, the people all exulting,
While follow eyes the steady keel, the vessel grim and daring:

But O heart! heart! heart!
O the bleeding drops of red,
Where on the deck my Captain lies,
Fallen cold and dead.
O Captain! My Captain! rise up and hear the bells;
Rise up—for you the flag is flung—for you the bugle trills;
For you bouquets and ribbon'd wreaths—for you the shores a-crowding;
For you they call, the swaying mass, their eager faces turning;

Here captain! dear father!
This arm beneath your head;
It is some dream that on the deck,
You've fallen cold and dead.
My Captain does not answer, his lips are pale and still;
My father does not feel my arm, he has no pulse nor will;
The ship is anchor'd safe and sound, its voyage closed and done;
From fearful trip, the victor ship, comes in with object won;

Exult, O shores, and ring, O bells!
But I, with mournful tread,
Walk the deck my captain lies,
Fallen cold and dead.


追記*「死せる詩人の会」を復活させたニールが洞窟の中で読むテニスンの詩は、『スカイフォール』でMが読みあげたのと同じ"Ulysses"だ。

                 ...Come, my friends,
'Tis not too late to seek a newer world....
for my purpose holds
To sail beyond the sunset,....
and tho'
We are not now that the strength which in old days
Moved earth and heaven, that which we are, we are;
One equal temper of heroic hearts,
Made weak by time and fate, but strong in will
To strive, to seek, to find, and not to yield.

個人的に好きなの、キーティングが詩で皮肉を飛ばしあった先生とささやかな友情をはぐくんでいるシーンだな。(間違ってたらごめんなさい)
あと、冒頭で生徒たちが行進してくるシーンで鳴らされるバグパイプの曲は"Scotland the brave"かな?