渚にて

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LIFE! /ミニマルからの脱出

お久しぶりです~!どうにもまとめて何かを書く習慣が仕事以外になくなってきて、集中が続かない今日この頃(全部いいわけだけど)。いかがお過ごしですか。私は花粉症です。しかも花粉の薬をもらってきてこの間飲んだら、深夜に胃痛で七転八倒する羽目になりました。ハーブの店でうっかり乗せられて買った化粧水で何とかしのいでいます。案外効く。
あれこれと映画を見ているのに全然感想を書いていませんでした。直近で見たものから紹介しようかな。

■LIFE!(2013・米)

ウォルター・ミティ(ベン・スティラー)は、アメリカの伝統ある雑誌"LIFE"の写真管理を務める冴えない男。若いころに父親を亡くして以来、一家の大黒柱として地道に人生を過ごしてきた。気になる同僚シェリル(クリステン・ウィグ)を追ってSNSに入ったものの、暴走する妄想以外では本人に声を掛けることすらできない。
時代の流れは厳しく、デジタル化の荒波でついにLIFEの廃刊が決まった。雑誌はオンラインへ移行、新しい上司はリストラの大鉈を振るい、早速ウォルターも目をつけられてしまう。そんな中雑誌の最終号の表紙を飾る写真を任されたウォルターだったが、受け取ったはずの肝心の写真のネガがどこにも見つからなかった。このままでは大変だ!ウォルターは当の撮影者で、居所すら知れない写真家のショーン(ショーン・ペン)を追いかけ、在り処を尋ねようとするが…

  
「これはいい映画です!!!」
と声を大にして言いたい。鬱屈とした人生を贈るあなたへ…という決まり文句とともに予告が流された時には「大丈夫だろうか」と思ったけど、実際気持ちがいい作品だった。
ウォルター自身のトラブルを巡る旅と、彼の内部に起きた変化を描くという本来ごく私的な映画なのだが、そんなミニマルさをあまり感じさせない。たぶん小さな街中だけの物語として話が完結していないせいだろう。
ウォルターの妄想は最初とどまることを知らず、ヒロインが好きな「冒険好き」なヒーローの自分を想像しては呆けてばかりいる。想像のなかのウォルターはアクションスター並みの活躍をしてのけるが、もちろん現実ではリストラ寸前の社員に過ぎない。そんな彼を見守り続けてくれるのは、家族と、同じ地下の写真管理室で働く部下、そして会ったこともないショーンだけだ。
彼の身の上に起きた最大の事件は、彼を無理やりに外へと引きずり出す。想像以外で生まれて初めてシェリルに声を掛け、ネガの手掛かりを追って地下から地上へ、地上からまだ見たこともない場所へと押し出されていく。ウォルターはショーンを探しグリーンランドからアイスランドアフガニスタンからヒマラヤへと旅を続ける。生身でぶつかる人との触れあいと広大な自然との出会いを通して、彼の顔は段々と輝いていく。

ウォルターの父親が遺したプレゼントの日記の最初のページ、世界地図の端に一言「楽しめ」とメッセージが書きこまれているのがいい。ずっと眠っていたバックパックから見つけたその言葉は、ショーンのネガ同様にウォルターを広い世界へと導いてくれるのだ。
日記といい、この映画は小道具の効かせ方がいいよなあ。ほかにもママが作ってくれたケーキ、ネガ、ショーンがウォルターに贈った財布、物々交換したスケボーなど、道具の一つ一つにちゃんと役目を持たせている。
その意味はつまり、実際に「君の目で見て、話して、感じてくれ」ということなんじゃないだろうか。
LIFEのオンライン化が暗示するのは、雑誌を作ってきた多くの人や、手に触れる紙という媒体との決別だ。人と人との関係が希薄になり、生身で何かを見ることすら少なくなる世界。冒頭でSNSで同僚に声を掛けようとしたウォルターはまさに自らそんな場所に沈み込んでしまっていた。

グリーンランドのバーでシェリルの幻影を見るシーンが美しい。デヴィット・ボウイの"Space Oddity"を歌う彼女に背中を押されるようにして、ウォルターは「人生」へと飛び込んでいく。

This is ground control to major Tom, you've really made the grade
And the papers want to know whose shirts you wear
Now it's time to leave the capsule if you dare
This is major Tom to ground control, I'm stepping through the door
And I'm floating in a most peculiar way
And the stars look very different today
Here am I sitting in a tin can far above the world
Planet Earth is blue and there's nothing I can do 


Space Oddityはボウイが作りだした宇宙飛行士「トム少佐」と、彼を見守る地上管制塔との通信を歌った曲だ。彼はいま宇宙へと飛び出したところで、遠い空から地球を見下ろしている。この光景はそのままウォルター自身にも当てはまる。

私にとっては、アイスランドの自然の雄大さを見せてくれた映画だった。絶対にこの自然は劇場で見てほしいな。スケボーで誰もいない道路を滑って行くウォルターを見ていると、「ああもう、旅に出たい!」って思っちゃう。そんな背中を押してくれる作品であると同時に、どんなに地味でも、「誰かが自分の事を見ていてくれる」っていう優しいお話です。
Jose GonzalezやArcade Fire、Of Monsters and Menといった音楽も素晴らしいので、サントラもお薦め。


★LIFE!公式サイト