渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

グランド・フィナーレ/されどそれも人生

グランド・フィナーレ(YOUTH) (2015/伊・仏・瑞・英)

世界的に名が知られた英国人の老音楽家フレッド(マイケル・ケイン)は引退を決め込んで俗世を離れ、セレブが集うアルプスの高級ホテルで無気力にバカンスを送っていた。
同じくホテルに滞在している親友で映画監督のミック(ハーヴェイ・カイテル)は、若手たちと新作の構想にいそしむ。ホテルにはロボット映画で知られたハリウッドスターのジミー(ポール・ダノ)らもいた。
ある日フレッドの元に、英国女王から勲章の授与と出演依頼が舞い込んでくる。
曲目はフレッドの名作『シンプル・ソング』。しかし、フレッドはかたくなに出演を拒むのだった。




美しい自然に囲まれた高級ホテルのスパには、老人から若者まで、さまざまな人が列をなす。
フレッドの老いた体と対局をなすミス・ユニバースのみずみずしい肌が印象的だ。
この作品には対比と同時に、いくつもの「繰り返し」が描写されている。
円環をなすホテルのライブシーン。機械的にプールへと進み、エレベーターで昇降する人々。途中までで止まってしまうヴァイオリンの音色。
彼らは一見毎日変わらないように見えるが、その実少しずつ変化している。
レストランにいた夫婦、ミックと会話するスパのスタッフ、役柄の選択肢を選ばずにいたジミー、いつも同じような構図で、同じ場所を歩いていたフレッドとミックにさえ変化が訪れる。
時はすべからく移りゆくものなのだ。

フレッドはかつて一緒にいた妻との幸せな追憶の中に閉じこもり、現実を直視することを放棄している。
しかし、ある出来事がフレッドの背中を押す。初めて彼が外へと歩き出す時、否応にも自らを取り巻く老いと死に向き合わざるを得ない。それでも生きる限り、人生は続いていく。
ある女優がミックに対して言った言葉通りに。

作品の原題は『Youth』。
映画を最後まで見れば、こちらのタイトルの方がすとんと胸に落ちるのは明らかだ。
グランド・フィナーレ』というと、「老音楽家が最後に華々しい舞台に立つ話かな」と思ってしまう。
しかし、この作品は実はフィナーレをも超えたその先を描いているのだ。
誰もが美しく華々しいフィナーレを迎えられるなら、どんなに幸せなことだろう。だが、人生はそんなに甘くはない。生きれば生きるだけ積み重なる苦しみがあることを忘れてはならない。
ただ、苦しみがあると言うことはおそらく喜びもあるのだろう。
終わってしまったはずの出来事にだって、新たな発見があるのかもしれない。
そんなささやかな希望を感じさせてくれる作品だ。

映像はひたすらに美しい。
明るいアルプスの自然はもちろん、フレッドが見る幻想、夜の照明を生かした宝石のような舞台、どれも美術館に飾っておきたくなってしまう。
監督のパオロ・ソレンティーノは『イル・ディーヴォ』『グレート・ビューティー/追憶のローマ』などの作品を生み出している。
タイトルだけ見るとこちらもずいぶんと年齢を重ねた人が撮っているように見えるが、彼はまだ46歳だ。タイトルで食わず嫌いしていたところがあるから、ぜひ追って見てみたい。
音楽はデヴィッド・ラング。
サントラも素晴らしいので音楽映画としても楽しめる。

カンヌプロモのマイケル・ケインと娘役のレイチェル・ワイズがすてき。やたらとセクシーなのはジェーン・フォンダ


*何もする気力がなくなり、久々に戻ってきましたがリハビリなのでお目汚しを失礼いたします。