渚にて

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ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール/彼らの行方不明の神様

■ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール(英・2014)

スコットランドグラスゴーのとある街はずれの病院。心を病んで個室に入院していた少女イヴは、退屈を紛らわすためにラジオを聴き、ひとり音楽を作って心を慰めていた。
ある日病院を飛び出して出かけたライブハウスで、イヴはギターを弾くジェームズと出会う。さらに彼の友達のキャシーとも知りあうことに。
どこかぱっとしない日々を過ごしていた三人は意気投合し、バンドを組むことにする。





「神様、彼女を助けてあげて」
イヴは自分で初めて作った歌をテープに吹き込み、自作のジャケットに"God help the girl"と書く。彼女は失恋の痛手が原因なのか、オーストラリアからはるばるやってきたグラスゴーで一人きりで入院生活を送っている。
彼女が出会うジェームズは眼鏡にひょろ長い体という、いかにも草食男子らしいスタイルで、彼曰く「チンピラの多い」この街では浮いていて居心地が悪そう。もともと彼はイングランド生活のほうが長かったのに、またこの街に戻ってきた「よそ者」でもある。キャシーはキャシーで、裕福そうな家の世間知らずなお嬢さん。彼らの運命的な出会いは、一気に音楽という表現へと向かっていく。

この初々しいミュージカル映画を監督したのはスチュアート・マードック
言わずと知られた、グラスゴーミュージックの筆頭格ベル・アンド・セバスチャンのフロントマンだ。恐らく彼の見た風景や心象、音楽がこの映画には大きく反映されている。
個室のベッドでラジオに耳を澄ませる少女、DJが話題にしているのはニック・ドレイク(!)、イヴが病院で挑戦する録音(しかもテープに)という、映画のあちこちに仕掛けられたネタに、気恥ずかしくなりながらも共感してしまう人は多いんじゃないだろうか。

病院では死んだように暮らしていたイヴが、外へ出て心を開けるのは歌を歌う時だ。
自分の思いをすぐに歌にできるイヴの才能と、彼女自身に魅了されたジェームズは、イヴへの思いを秘めながら同じアパートメントに暮らす。小悪魔みたいに可愛くて自分勝手で、それでもやはり孤独なイヴは、彼の前に現われては消えるまぼろしのようだ。
彼らの日々は駆け足で去っていく。
3人一緒だった足並みは次第にそれぞれの方向へとずれていき、心もすれ違う。
それは私がこれまで出会った、いろんなバンドと似ている。
一瞬泣けてきたのは、イヴが一人きりになって朦朧として見る夢に、3人でふざけ合いながら遊んだ記憶や幻覚?があふれだしてくるシーン。孤独に打ちひしがれながらも、友人や音楽と向きあった彼女の日々が確かにそこにあったと実感したからだ。

「神様、私を助けて」と願ったあとで、イヴはきっと絶望と希望を同時に味わった。
神様は外ではなく自分の中にいるもので、簡単に手を差し伸べてはくれない。それどころか、自分で立ちあがらないといけなくなる。
自分の内なる声が示したほうへ、彼らはそれぞれ進んでいく。彼らなりの歩幅で。


最後のジェームズの言葉が「ばかー!!」と思いながらも泣けた…。
この映画、製作を大手の映画会社に断られて資金集めが大変だったらしい。キックスターターで世界中から出資を募り、12万ドルを集めたとか。エンドロールで出資者の名前がずらりと並ぶ様をみて、いいなあ私も出資したかったなあと思ってしまった。


イヴを見ていたらベルセバのBeautifulという曲を思い出したのでそっと置いておく。




"Beautiful"

She lay in bed all night watching the colours change
She lay in bed all night watching the morning change
She lay in bed all night watching the morning change into green and gold

彼女はベッドで夜通し 色が変わるのを眺めてる
彼女はベッドで夜通し 朝へと移ろう様を眺めてる
彼女はベッドで夜通し 朝が緑や金色に彩られていくのを眺めてる

The doctor told her years ago that she was ill
The doctor told her years ago to take a pill
The doctor told her years ago that she'd go blind if she wasn't careful

医者は何年も前に 彼女が病気だと言った
「ピルを飲まなきゃいけません」
もう何年も前に
「気を付けないと目が見えなくなるよ」と

They let Lisa go blind
The world was at her feet and she was looking down
They let Lisa go blind
And everyone she knew thought she was beautiful
Only slightly mental
Beautiful, only temperamental
Beautiful, only slightly mental
Beautiful

彼らはリサを盲目にした
足元にある世界を彼女は見下ろしていた
彼らはリサを盲目にした
彼女の知り合いはみんな 彼女をきれいだと思った
ちょっと精神を病んでるだけで
きれいな子、神経質なだけ
きれいな子、ただちょっと病気なだけ
きれいな子

(以下略)