渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

エグザイル/絆  男たちの道行

■エグザイル/絆 (香・2006)
返還直前のマカオ。かつて香港マフィアのボスの命を狙い、逃亡を続けていたウー(ニック・チョン)の家へ、4人の男が訪れる。ボスの命令でウーを殺しに来たマフィア、ブレイズ(アンソニー・ウォン)とファット(ラム・シュー)、反対にウーを守りに来たタイ(フランシス・ン)とキャット(ロイ・チョン)。彼らとウーはもともと幼馴染みだったが、今は追い追われる立場にあった。ウーは最後の願いに、「妻と生後一カ月の子供に財産を残したい」と打ち明ける。望みを叶えるために再び行動を共にすることになった5人だったが…


「昔馴染みの男を訪ねて来る訳ありそうな男たち」というのは、いかにも西部劇っぽい。
序盤のウーの家の中で、 ウーとブレイズとタイが互いに銃を打ち合う。三つ巴の激しい応酬の間、銃撃の激しさに空中を舞うドア!!外では巡視中の刑事を追い払うためにキャットが空き缶を銃弾で空中回転させるチートぶり。そう、ここにはチートしかいない。5人の中では太めで、いじられお笑い担当っぽいラム・シュー演じるファットですら恐らく強い。彼らがそれぞれ立っているだけで、不穏で近寄りがたい雰囲気がある。ぶっちゃけ、めちゃくちゃかっこいい。かっこいい。息ができないくらいかっこいい!!!
全体を通して、派手な銃撃戦はあるものの、流れるように美しく撮られている。中盤での藪医者での銃撃戦も、薄い布のカーテンがひらめく中で幻想的に始まる。後半に至っても血しぶきは単なる血糊ではなく、煙草の煙と同じように彼らを彩る色彩だ。




現実離れした銃撃戦は、彼ら自身が現実から乖離していく象徴のような気がしてならない。
中盤で突然目的を見失った彼らは、コインで行く先を決めながらあてどもなく先へと歩き続ける。
とことんまで追いつめられた状況にもかかわらず、失われた時間を埋めるかのように無邪気に話し合い、はしゃぐ(注*おっさんです)。まるで修学旅行を見ているみたいな可愛さに思わず笑ってしまうが、恐らく意識の上では彼らはこの時すでに死んでいる。何も持たない彼らにとっては、一見楽しげな旅も人生の余剰部分でしかない。
最後に再び目的を見いだした時、ようやく彼らは息を吹き返す。

映画最後の方のシーンで、ドアを閉めるフランシスの顔が好きだな!
映像がとにかく綺麗。光の当たらない影の暗さ、赤や白の照明、あえて黄色く濁った色合いで撮られる逃亡シーンと、色調やカメラの位置をよく考えてある作品だと思う。

映画を見ながら、近松門左衛門の『曽根崎心中』の道行文が脳裏を横切った。世間の目を逃れて逃げ出す男女をうたった道行文は色恋の悲劇だが、道行の哀しみはこの映画の男たちにもつながるような気がする。

「この世の名残り 夜も名残
死に行くこの身をたとふれば、あだしが原の道の霜 
一足ずつに消えていく 夢の夢こそあわれなれ
あれ数ふれば暁の 七つの時が六つ鳴りて、
残る一つが今生の 鐘の響きの聞き納め 寂滅為楽(じゃくめついらく)と響くなり
鐘ばかりかは草も木も 空も名残りと見上ぐれば 雲心なき水の音
北斗は冴えて影映る 星の妹背の天の川」

この作品を含めてジョニー・トー監督作品にはまりかけて、『エレクション/黒社会』『エレクション/死の報復』『柔道龍虎房』と少しずつ見てきて4作目。次はどれにしようかな。トー監督は台本がほとんどメモ書き程度しかない役者泣かせと聞くが、本当にそうなんだろうか。どうやって撮っているんだろう。
それにしてもボス役のサイモン・ヤムといい、マカオのボス役のラム・カートンといい、トー作品を見ているともはや「一家」と言ってもいいくらいの出演率なんだな。好きだけど混乱してきたぞ。よし、キャストが『エグザイル』とほぼ同じと言う『ザ・ミッション』、次はお前か…!