渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

春、バーニーと一緒に

いたいけだった(と思われる)高校生くらいのころ、私にもう少し根性と度胸があったならギターを始めていたはずだ。
その頃出会ったのがバーニーのギターだったから。

思い出を話すのは得意だけどあんまり好きじゃない。過去のことは結局今取り戻せないものだし、本当は先の楽しい事を考えているほうが好きだ。
でも私にとって、バーニーのギターはやっぱり特別だった。
バーニー、BernardButlerは、90年代初頭のイギリスで脚光を浴びたネオグラムバンド、Suedeの初期ギタリストだ。



1989年、ボーカルのブレットとベースのマットを中心に結成されたSuedeは、メンバー募集の広告をあちこちに載せる。その知らせを見てオーディションにやってきたのがバーナードだった。バーニーのギターは、The Smithsジョニー・マーを彷彿とさせたという。
90年代初頭といえば、アメリカはNirvanaに代表されるグランジ旋風のただ中にあった。私はあんまり詳しくないけれど、若者の叫びそのもののような荒々しいグランジとは一線を画し、イギリスでは後にブリットポップ台頭の礎を築くバンドがあちこちで産声を上げ始めていた。
ざっと言ってしまうとSuedeもその一つ。デヴィッド・ボウイとスミスを掛け合わせたような、ナルシズムと奇妙な淫美さを備えたバンドだった。

一言でどんなバンドかっていうと、ぶっちゃけ変態くさかった(爆笑)。
歌詞には近親相姦にドラッグにセックスとやたら退廃めいたフレーズが並び、グラムに影響されたブレットの中性美とさらに輪を掛けたゲイ発言などが大衆紙を賑わし、一躍彼らは時の人となる。
それに嫌気がさしたのがバーニーだったらしい。
もともとボーカルをぶっ潰すかのごとく大音量でかきならされるバーニーのギターは、ライブでも自重を知らなかった。それでもその痩せぎすの体にギターを括りつけるようにして奏でられる音は、今まで聴いたことがないくらい生き生きとしていたし、ブレットのファルセットのかかった声と、それこそ崩壊すれすれのところで絶妙なハーモニーを生みだしていた。

最初にテープに録音していたラジオ番組の中で彼らの歌を聴いた時、「何だこれ」とその仰々しさにびっくりし、曲名の後に「変な歌」とメモをした。それがある日、もう一度再生ボタンを押した瞬間、バーニーのギターとブレットの声に私はがつんと頭をぶたれたような気分になった。
それはまるで、恋だった。

Suede/Animal Nitrate


Suede/Animal Lover

Suedeのビデオを中古CD屋で見つけて、擦り切れるまで再生してはバーニーのギターに見惚れた。あんな音がもしも出せたら、どんな気分になるだろう?
しかしその時すでにバーニーはバンドにはいなかった。94年、2ndAlbumで早くも彼はケンカ別れするようにしてSuedeを脱退してしまっていたのだ。
バンドはその後も別のギタリストを入れて何とか続き、解散し、近年にまた再結成を果たしている。でも私にとってのSuedeはバーニーだった。だから、バンドのファンには申し訳ないけれども、初期の二作以外はあんまり聴いていない。
ソロになってからのバーニーの曲も私は結構好きだ。
Not Aloneは「僕は孤独じゃないんだ、最近は」とまるで物別れに終わったSuede時代の自分に叩きつけるような歌だけれど、その泣き出しそうな温かい声は何だか癖になる。
彼は歌の中でこう続ける。「たぶん、僕は誤解していたんだよ」

Bernard Butler/Not Alone




Suede解散から間もない2004年、ブレットは交友を断絶していたといわれるバーニーと、The Tearsというバンドで約10年ぶりにタッグを組む。その年のサマソニで彼らを見られた私は、ある意味相当ラッキーだったかもしれない。その後Suedeが再結成してもバーニーは呼ばれなかったようだ。まあSuedeは彼がいなくなった後の状態でやってきた時間の方が長かったから、そういうものなのかもしれない。
The Tearsは商業的には上手くいかなかった。それはそれで私は好きだったけれど、やはりファンが欲しかったのは「ブレットとバーニーのSuede」だったのだろう。サマソニの時、隣の外国人が「Please, Metal Mickey!」と叫んだときには、(気持ちはすごく分かるけど、ここではだめ!)と私がバーニーの機嫌に冷や冷やしたものだった。だが、あのひとときはまるで夢のような時間だった。

The Tears/Refugees

組んだユニットもプロデュースしたバンドも次々と解散することから、「バンドクラッシャー」と不名誉なレッテルも貼られているが、今でもバーニーの音を私は愛している。
彼はもっともギタリストらしいギタリストではないだろうか。
自分のエゴを包み隠さないから、安定は望めないけれど、あんなに目立つボーカルよりも先にギタリストの顔を思い出すバンドを私は他に知らない。その時、私の脳裏は彼のギターが奏でるメロディーに塗り潰される。
そしてリアルタイムで経験できなかった彼らの時代を、私はまた飢えるように求め出すのだ。

Suede/Wild Ones
ブレットの声がまた美しい


★おまけ
バーニーについて書いてる人がいたあ!
ギタリストの館/バーナード・バトラーの巻(Rockin'on Indexさま)