渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

特捜部Q/冬の北欧ミステリ

銀背にはまって以降すっかりハヤカワづいている。寒い季節だし家に閉じこもってミステリでも読もうと手にしたエッシ・エーズラ・オールスンの『特捜部Q』が面白くて、ほかの本もそっちのけで思わず読みふけってしまった。
おかげで相変わらず寝る時間が鬼のように遅くなっている。とりあえず第二弾までは読み終わった。



『特捜部Q』は三部作の警察小説で、舞台はデンマークコペンハーゲン警察に勤めるカール・マーク警部補が主人公だ。
特捜部Qとは、お上の警察機構の改革案に伴い新たにつくられた未解決事件専門部署。しかしその内実は、捜査官としては優秀だが暴走しがちなカールを厄介払いするため、彼に地下室をあてがい追いやるための窓際部署である。部下はシリア系の謎の多い男アサドのみ(第2弾ではローサという部下も新たに加わる)。
しかもカールは少し前にとある事件に巻き込まれてしまい、同僚の一人を目の前で殺され、もう一人の同僚はほぼ全身不随の状態に陥っている。家に帰れば浮気して出て行った元妻の連れ子が爆音で音楽をかけているし、フィギュア好きの図体のでかい同居人が待っている。にっちもさっちも行き詰まりの状態だ。
特捜部Qのリーダーとなってもやる気をみせなかったカールだが、アサドが見つけ出したファイルから女性政治家失踪事件に取り掛かる羽目になる。世間からはすでに忘れ去られた事件だったが、渋々捜査をしていくうちに意外な事実が少しずつ明らかになっていく…。

これが第一弾、『檻の中の女』のあらすじだ。
カールと事件の被害者の視点が交互に描かれ、現在と事件当時の時間軸が少しずつ近づいて行く。
上司とことごとくぶつかるカールは警察内部では鼻つまみ者だが洞察力に長けていて、意外にも器用なアサドがそのサポートをする。地下室の隅に敷物を引いてアッラーに祈り、謎の恐ろしく甘い茶を入れ差し出して笑うアサドと、カールのふてくされた感じのギャップがおかしい。個性的なキャラクターたちはこの話の救いだ。
正直カールはプライベートがどん詰まりすぎて本来捜査どころではないのだが、調べ出すと刑事の血が騒ぐのかどんどんと先へ先へと進んでいく。キャラクターのユニークさとは反対に、事件や彼らが置かれた現実の内容は暗く、陰惨なものだ。もしかしたら読む人をかなり選ぶかもしれない。

この『檻の中の女』、被害者視点の情報を追ううち、読者は恐らく半分のページもいかないうちに犯人に気づくはずだ。これは作者も意図してのことだと思う。そこからどうやってカールが真相に行きつくのかを息を詰めて見守るほかないのだ。

第二弾『キジ殺し』はさらに「暴力」に焦点が当たった話で、これまた相当読むのが辛い。
前回の事件を経て一躍脚光を浴びることになった特捜部Qは、次の捜査に着手する。それは20年前に無残に殺された二人の兄妹の事件だった。犯人はすでに収監されているが、どう考えても一人でできる犯罪ではなかった。裏に見え隠れするのは、キジ狩りに興じるエリート層の男たち。カールが相手にするのは、そんな暴力に飢えた狂気の人間たちだ。
前作よりも多くの人物が事件にかかわり、物語はさらに陰鬱さを増していく。

読み終えたばかりだが、タイトル『キジ殺し』は、一体誰を意味するのだろうと思った。
この話は前作同様、やはりカールと、『もう一人の主人公』の物語である。話の中で追う者追われる者が交互に入れ替わる。後味はすこぶる悪いが、わずかな救いが最後にちらりとある。
泣かないはずの『彼女』が泣いた理由とは、何だったのか。今明かせるのはここまでだろうか。
女性が読むと結構きつい描写が多いのでちょっと注意。
あと、新キャラクターの部下、ローセ!なかなか強烈な女性だが、何気なくこの地下室に集まるのは有能な変人ばかりで笑える。もうちょっと可愛げが出て来るといいんだけどなあ。
心身ともに傷を負ったカールは最後にある決断を下すが、さあどうなることやら。一番の救いは、カールの元妻のコメディエンヌぶりにある気がするなあ(笑)!アサドの正体も気になるけれど…。

普段『このミステリーがすごい!』(宝島社)はあまり読まないし参考にもしないのだが、Twitterで流れてきた情報で「ことしの海外ものは米英以外のミステリーが多くランクインしている」というのが気になっていた。確かそのベストテンには漏れたが、『ミステリが読みたい!』(早川書房)ではランク入りしていて、読みやすそうなこの作品を選んだ。
去年ちょっとだけコペンハーゲンに行ったのも気になった理由の一つ。カールが警察の庁舎からチボリ公園を見下ろす描写で、「あんな街中にあったんだなあ!」と思った。

去年、コペンハーゲンの街中をぶらぶらしていた時の。ちょうど自転車の世界レース中だった
北欧の警察事情はよく分からないのだが、小説を読むとデンマークでは機構改革があってばたばたしたり(2007年に実際にあったようだ)、途中で辞める人が多かったり、なんだか大変そうだ(笑)。どこかのブログで見た、「北欧ミステリの警察の家はたいてい家庭崩壊している」っていうのも泣ける。がんばれカール。
「これ、ドラマで見てみたいなー」と思ったら、やはり『檻の中の女』のドラマ撮影が進められていた!!!
デンマークで2013年の秋に放送だって…!!カールはイメージに近いな。まったく聴き取れないが(涙目)!
Der er solgt flere end 1.250.000 eksemplarer af Jussi Adler-Olsens bøger om Afdeling Q. Optagelserne til den første i række, 'Kvinden i buret', er allerede godt i gang på Zentropa
  "Kvinden i buret"Backstage


北欧警察つながりで、アルネ・ダールの『靄の旋律』(舞台はスウェーデン)も気になってきた。それからやはりデンマークが舞台のドラマThe Killing。BAFTAで最優秀国際シリーズ作品賞も受賞もしているし、面白そう。
The Killing