渚にて

旅行、音楽、読書、日常の雑記をつれづれに。

北欧ところどころ1 遠くまで行こう(Norway,Bergen)

舌の根も乾かぬうちに9月の北欧旅行のことを書こうと思う。
アイスランドも始まってまだ途中なんだけど、交互に書いて行けたらいいかなって。読む人の事を考えていないけれど、そういう気まぐれじゃないと書けないことも多い。

どこか遠くに行きたいと常々考えている。それは戻れる場所があってのことだし、それだけのものを得ての贅沢なのだけれど、機会が与えられればすぐにでも。
何度か言っている気がするが、「どこにも行けない」と思うことは、大げさかもしれないが、私にとっては死ぬようなものだ。もちろん私がすぐにこういう思考回路に陥ってしまうことも原因の一つにある。普段はどちらかというと引きこもりに近いのだけど。

私は遠くに行きたかった。以前にも少し書いたけど、北の方へ。オーロラが見えるところか、フィヨルドが見えるところ。

■10,Sep,2012(1日目:Narita,Amsterdam,Bergen)

成田への行き方は去年と同じだった。真夏の日差しが照りつける上野でスーツケースを引きずって、ホテルに一人で泊まる。そう、今回は一人旅だ。こんなの久しぶりで、10年前くらいのイギリス行きの前夜を何となく思い出した。あの時はひどい日差しだったのに、ホテルに帽子を忘れてしまったんだっけ。
ところで、びっくりしたのはスウェーデンの知人、Mさんのメールだった。彼に「何かいい場所を教えてください」と頼んだら、前日に突然「ストックホルムにいる娘と会ってください」と連絡が来たのだ。会ったこともない娘さんとメールを交わしながら、wi-fiすら使い方が分からない私はとりあえず現地のホテルを教えて、待ち合わせの時間を決めた。
そんなことがあったから、北欧好きの友人Kさんに電話して緊張をほぐす。翌日にはメールもくれた。心強い気持ちで、私はチケットを握りしめてKLMに乗りこんだ。

初めてのKLM!可愛い!

一人だから容赦なく隅っこの三人掛けの一番窓際に座らされて、トイレに行くたびに隣のおじさんたちに謝らないといけなかったけど、皆すぐに大きな身体を縮めさせてくれた。飛行機ではまたアベンジャーズを見た。それがほぼ8時間。

オランダのアムステルダム、ハブのスキポール空港でトランジットをして、ベルゲンに向かう。その待ち時間はなんと6時間もあった。
Kさん夫妻に「一瞬外に出て、観光するのはどうでしょう」と尋ねていたが、旅慣れた彼らからは「疲れるだろうから、あんまりお薦めしない」という返事があった。
まさにその通りで、オランダに降り立ったころには私は時差ぼけで頭がぐるぐると回り、死にそうな気分だった。スーツケースは飛行機に預けたままだけど、その代わりにやはり重いリュックを背負いながら慣れない空港を彷徨わなければならなかった。一人ってこういうとき、辛い。
どこから入国審査を受けるのかもいまいち分からず、半ば自棄になってまだいいだろうとスタバでカフェラテを頼む。日本でもよく飲んでいる、同じような味にちょっとだけ癒される。

去年のトランジット先のデンマークや、今年2月の台湾でもそうだったけれど、空港で一番に行きたくなるのはスタバだ。そこでカフェラテ一杯の値段を計る。オランダはユーロ圏で、大体500円台だったかな。これから行くノルウェーは独自通貨のクローネだ。
海外のスタバにはショートサイズはなく、たいてい日本で言うところのトール、大きめのサイズから始まる。それから店の人の対応で何となくその国の感じをつかめる気がする。この点、オランダも北欧も総じて親切だった。クレジットカードを通す機械の挿し込み方が分からなくても、丁寧に教えてくれる。たくさんの飛行機が目の前を行きかう様子を見ながら、ようやく覚えたwi-fiで限られた時間だけネットを見る。
日本時間を見たらまた、時差ぼけの頭が鈍く痛んだ。


スキポール空港の夕方の空がきれいだった

ようやくベルゲン行きの飛行機の時間がきた。窓の向こうはすっかり暗くなって、夜が始まっている。
隣に座ったおじさんが、こちらを見て笑って話しかけてきた。「日本から来たのか?」
「そうです」と言うと、「東京?」と言う。違う、反対のほうです。リュックから『地球の歩き方』を取り出して、地図を見せる。おじさんは日本に行ったことはないけれど、中国などは旅をしたことがあるらしかった。
「私はデンマークに住んでいるが、働いている場所がベルゲンなんだ」
おじさんがそう言って、家があるらしいデンマークの北の方を指差した。
ずいぶん遠いんだな、と思ったけれどこっちではよくある話みたいだ。今日は出張でもあったんだろうか。フィヨルドを見に行くんです、と私が言うと、どのフィヨルド?と聞いて来る。ガイドブックを片手に私はおぼつかない言葉で説明した。ふと見るとおじさんの片方の手の親指が欠けていた。

彼はベルゲン空港に着いたあとも、荷物の場所やバスの場所をあれこれと教えてくれた。結局バスの席まで隣に座らせてもらった。
暗いバスの中で、ベルゲンはどんな所?と尋ねてみる。バスの窓を冷たい雨が打ちつけている。

「一年のほとんどは雨だよ。大きな山があるから、そこに空気がぶつかって、雨が降る」
それから、おじさんはベルゲンが海運都市だったということなどを教えてくれた。そういえばあまりちゃんとした知識を持っていなかった。
後から調べると、ベルゲンはノルウェー第二の都市で、12、3世紀まではこの国の首都だったのだと言う。
そうこうしているうちにホテル付近の駅に着いたので、おじさんに「ありがとう」と言って別れた。
しかし、8時間のフライトと6時間のトランジット、さらに2時間の飛行を経て、雨ざらしのバス停にいきなり放り出されたのだ。大体時間はもう10時過ぎだ。暗くてホテルの場所もいまいち分からない。

「さ、さむい!!!」
びしょぬれになりながら、まず必死の思いでスーツケースから雨具を取り出す。工事中のターミナルから同じバスを降りた青年が「こっちなら濡れないよ!」と言ってくれるけど、人通りも少ないしちょっと怖かったから、「ごめん、すぐにホテルに行かなきゃだから!!」と叫んで歩きだした。
手掛かりは少ないけど方角は合っている。
何とか数分後に目的のホテルの灯りが見えた時、私は心底ほっとした。
ホテルの人は温かく、見たことがないタイプの謎のカードキーの開け方もよく分からなかったが、近くの人に何とか教えてもらって部屋にたどり着いた。

つ、い、た!!!!

温かい部屋でまたカーテンを寄せて、窓の外を見る。
水滴に濡れたガラスの向こうに、向かいのホテルの小さな灯りがほんのりと滲んでいる。
ベルゲン、雨の街。
おじさんの言葉を私はもう一度思い出した。

ホテルの部屋が可愛くて、泣きそうになった

傘を干した。このラック、実は友人の家にもある