渚にて

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熱すぎる個人的『平清盛』考


このところ水面下でずっと清盛の話題しかしてないんだが、誰にも発することができないこの滾る思いをようやく日記なるものに託してみんとす。
大河ドラマの『平清盛』です、もちろん。

メディア反応が低視聴率ばかりに向けられがちで、その実このドラマの水面下の注目度って見落とされがちな気がするんだが、実は相当数いると思うんだよね。
低視聴率の原因は「話が分かりにくい」「人物多すぎる」ってこれまでもそんなん死ぬほどあっただろこのやろう!と思うのだけど、確かに武士最初の幕府まで構えて、日本史の教科書の必須暗記科目になっている源氏と比べると平氏って後世において影が薄い。
能や歌舞伎など古典ものの定番じゃないか、という意見もあるかもしれないが、義経や弁慶、敦盛と熊谷次郎直実が堂々の主役を張るのに比べ清盛は話に出てくるだけの人物である。
私も「大輪田泊のひと」「平家の棟梁」くらいしか知らないし、義経伝説に浸った純日本人ならば恐らく源氏側に親近感を持ち、清盛はどこか悪役と見る旨が強いのではないだろうか。

第一の問題は、「知名度の割に何をしたかよく分からない人、清盛」というところにある。
一部の戦国好きを除いては恐らく知られることはなかったであろう、過去の『天地人』の直江兼続や『風林火山』の山本勘助に比べればまだましな方だと思うのだが、ここには時代設定の知名度も強くかかわってくる。
近年の戦国ブームのおかげで、『信長の野望』を経験していない女子ですら有名な戦国武将の名前くらいは言えるようになったかもしれない。
たとえば主役本人を知らなくても、その周囲にいる信長とか秀吉といった武将のおかげで、何となく時代背景と状況が把握できるのである。

だが考えてみてほしい、『平清盛』の時代は平安時代末期だ。
単純な私の脳みそだと、平安=藤原氏の天下となり、そこにいつ武士、そして清盛が台頭してきたかの知識が乏しい。
調べてみると過去の大河においてこの時代、とりわけ清盛以前の時代を取り上げているのは、平将門藤原純友の乱を描いた『風と雲と虹と』、前九年・後三年の役を取り上げた『炎立つ』、そして『新・平家物語』くらいで、あとはもう義経や平家の没落が中心になってくる。しかもこれらの大河がつくられたのは相当前の話だ。
そうすると、平家の栄華は知ってはいても何をしたかまでは知識として知らない人は多いはずだ。
日本史を通っていない人ならば直のこと「いつの話?」状態だろう。

大河ドラマ平清盛』の最初のつまずきは、この部分をおろそかにしてしまったことが大きい。
時代背景、当時の武士というものの存在の意味合いがぼやけたまま(ドラマの中ではちゃんと描かれてはいたのだが)になり、なおかつ清盛の父親忠盛や義朝の父為義の話まで出てくると、「これは一体誰のどういう関係の人なんだ」という混乱が深まってしまう。
演出上意識して行ったことだと思うが、『平清盛』はそれを最小限の説明にとどめた。
そのため、後から視聴者に「相関図がわからん」と突き上げを食らう羽目になり、慌ててサイトに細かな説明を上げ、アバンに初心者でもわかるやさしい時代背景の説明を加え、恐らく脚本にも手を入れた。
これらの対応が後手に回ったのは痛いが、それでも私はこの大河が好きだ。なぜならば―

RPGで、少年ジャンプだからである。

「はて?」となった人もいるだろう。天下の大河ドラマがなぜ少年ジャンプなのか。
それは最初から見ている人なら分かるはずだ。

平清盛』では、先の院の落胤ながら平氏の棟梁の息子として育てられた異端の武士・清盛と、源義家白河院の確執以来遠ざけられていた不遇の源氏の棟梁の息子・義朝の明確なライバル構造がこれまでの話の軸になっている。
アイデンティティーを探して、尾崎豊並みに宋剣を振りまわして暴れまわる若き日の清盛の秘めた可能性に最初に気づくのは、この義朝だ。
それはもう『ガラスの仮面』のマヤと亜弓もかくやと言わんばかりのライバルぶりなのだが、この場合のライバルとは単なる敵ではなく主人公を導き高める立場にある。
最初の出会いから「俺と勝負だ!」と言って始まる二人の競べ馬に至るシーンなど、少年ジャンプを読んで成長してきた人間ならば滾らないわけがない。
「なんつうベタや!!!!」
だがそれがいいのだ。
ただでさえ分かりにくい時代背景に分かりにくい人物相関図である。そこを何とか分かりやすくしようとキャラクターを少年漫画風に配置した制作側の努力がよく分かる。

しかもこのシーンは、つい最近の清盛と義朝の別れとなった場面でまた取り上げられた。
天皇側と上皇側に分かれて争った保元の乱では味方同士だった二人が、その後の恩賞や出世のラインで差が出てしまい、義朝がクーデター組に加担して平治の乱を起こしてしまうのだ。
(ここで『NARUTO』…と思った皆、君たちはたぶん正しい)
平治の乱天皇を監禁し、一時は成功したと思われたクーデターも、結局清盛側の勝利に終わってしまう。
追い詰められた義朝は、なぜかアイコンタクトで清盛と「サシで勝負しようぜ」と訴える。頷いた清盛は郎党も誰もいない謎の一騎討ちゾーンへと踏み込む。
なんでやねんーと突っ込んではいけない、これドラマだから!大体一族郎党交えての戦いは、清盛はすでに保元の乱で叔父と経験済みだ。
なるほど叔父との戦いは彼の転換期にはなっただろう。しかし清盛の初期のアイデンティティー形成に欠かせなかったのは義朝の方である。
その重要性を表すため、あえての永遠のライバル同士の一騎打ちになったのだろう。少年漫画ではよくある話だ。

結局清盛に破れた義朝は、最初の競べ馬のシーンと同じように馬に乗って去っていく。
あの時は勝利を得て、ライバル清盛との再会を信じての別れだったが、今度は敗北の孤独な道だ。
それを知って、今度こそ義朝も清盛も振り返らない。静かに泣く清盛。
ここで流れる音楽は絶対にガンダムSEEDでなくてはならない。



まあこんなそんなも今回またぶっとんだけどな!!!!
王道ながらも新機軸すぎて腹筋が崩壊した。
何て楽しいんだ清盛…!!!

あともう一つ書くと、途中で天皇とか法皇側の愛憎ごちゃごちゃが入り混じったのもよく分からなかったかもね。
確かにこの時代、そこを分かってないとその後の保元の乱の意味がまったく分からなくなるんだけど、あそこでこそもう少し人物解説を入れるべきだった。
しかし『平清盛』に期待するのは、これまでになくネット上で発信側受信側双方がつながっている点である。
世間で言われる視聴率低下を危惧してか、ツィッターを通しての情報発信を始めた制作サイドはよく分かっている。
テレビ自体があまり家族で見るものでなくなっているこの時代、一般の意見を取り入れていくことは大事だし(そこに左右されすぎるのはどうかと思うが)、何より発信側も手探りのドラマ作りだったはずなので、どういう風にしたらよくなるか、どこが良かったか悪かったかという反応が知りたいと思うのだ。

去年のような二次元スイーツ大河も分かりやすくて好きな人は好きだろう。
だがディフォルメされすぎた揚句、世界平和を叫んでは癇癪を起こすヒロインを私はどうしても好きになれなかった。
お前が世界の中心か!!と言いたくなるせいです。
そうじゃないだろ、大河ドラマの主役にしろ歴史のなかの一個人に過ぎないはずだ。
上司部下親兄弟のあれこれに左右されて苦しみもがきながら、それでも生き抜いたのがその人のはずだ。それでこそ胸を熱くさせるRPGで、読んでてよかったと思う少年ジャンプなんだ!!
そんな大河ドラマを私は期待している。


少々熱くなりすぎて怖いなー!本当にすいません、でも好きだよ!