渚にて

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生き残るための3つの取引/泥沼でもがき続ける男たち

春からハマったばかりのジョンミンまつりです。といっても全然見られていません。まだ序の序くらいのところでもがいています。だって春は見たい映画が多すぎる…
とりあえず、すぐに入手できた映画を何本か見てみました。

■生き残るための3つの取引(韓・2010)
たび重なる不祥事で世間からのバッシングを受ける警察庁。大統領勅令まで出ていた連続殺人事件の被疑者を誤って警察が射殺してしまい、事態は最悪の展開を迎えた。上層部は刑事チョルギ(ファン・ジョンミン)に、昇進を条件に事件のもみ消しを図るように命じる。彼は優秀だが、ノンキャリアのために出世を望めずにいたのだった。チョルギは苦しみながらも、自らの野望と家族や仲間の将来のために偽の容疑者をでっちあげる。一躍世間からヒーローとして歓迎されるチョルギ。しかしある検事が、警察の不審な動きにいち早く目を付け…



『新しき世界』のパク・フンジョンが脚本を務めたというので最初に見てみた。
うん、どこを切っても悪い奴らしか出てこないぞ!
主役のチョルギは言わずもがな、リュ・スンボム演じるリュ検事も裏で汚職に手を染め、チョルギがねつ造に協力させる、いかにもヤクザな建設会社社長チャン・ソック(ユ・ヘジン)も一筋縄ではいかない。一つを生かすために、別の何かを失わなければいけない。誰もが誰かの尾を噛んでいる泥縄状態。どん詰まりの中で、三者三様の攻防が繰り広げられる。10年ちょっと前に見られた韓流映画と比較すると段違いにスピーディーな展開で、いかにも新しい時代の監督の作品という感じがする。
フンジョンはしょっぱなの掴みが上手い。いかにも衝撃的な冒頭部を持ってくることで、否応なしに見る人を話に引きずり込む感じだ。このパターンは毎回やると飽きると思うけど、他の作品はどうなんだろう?
チョルギも酷く哀れな立場ではあるが、ヤクザを脅す目にはただでは済まない不穏さが漂っている。ここらへんはジョンミンの役者としての見せどころだ。

問題は話がかなり大風呂敷な点かな。
これだけの不祥事をさらなる不祥事で隠すとなると、警察が負うリスクが高すぎて、どうにも引いてみてしまう感は否めない。しかし、チョルギの追いつめられる様子を見ていると、それだけお隣は苦しい社会事情を背負っているのだという皮肉にも見てとれる。
母なる証明』のポン・ジュノ監督は、この作品を見て、「弱肉強食の韓国社会をこれほど赤裸々に描いた映画は初めてだ」とコメントしたそうだ。私たちが日本の刑事ドラマを見て考える以上に、あちらでのノンキャリア=「負け犬」の立場は厳しいものなのかもしれない。韓国の受験競争や自殺率の高さをたまにニュースで見る時、その事実を思い知らされる。
*参考:News Week日本語版「競争と伝統で板挟み「自殺大国」韓国の憂鬱」

後半になるほど追いつめられた男たちは暴走していく。積み上がる死体の山の上で、チョルギは何を思うのだろうか。
DVDの特典ディスクには削除シーンや別編集シーン集も盛り込まれている。後半部で、チョルギがある人物の位牌の前に立つシーンは何回も別編集で撮り直されていた。リュ・スンワン監督もどうやって見せようか悩んだんだろう。最終的には本編の形で正解だったと思う。だんだんと孤独になって行くチョルギを描くには、やはり沈黙がどうしても必要だったはずだ。
この作品には、陽気なファン・ジョンミンはどこにもいない。乾いた、けれども同時にぬかるみに足を突っ込んだような哀れな男がいるだけだ。泥臭い鼠たちの攻防も、階級社会の上にいる人間たちには微風が吹いたくらいにしか感じられない。そんな断絶された社会の一端を垣間見られる作品だ。後味は悪いが、それでも目を覆いながら見ずにはいられない。

まあそんなこんながあって、今私はこんなことになってるんですが、韓国語全然覚えられないです…